ジーンズは、誕生したときの姿形がほぼ変わらずに現在まで受け継がれています。それは、いつの時代にも愛される普遍的デザインと実用性を兼ね備えているからこそ。今回取り上げるのは、ジーンズのなかでもジーンズらしいパーツのひとつ、トップボタンです。知れば知るほど、ジーンズに施された工夫と機能美に魅了されるばかりです。
ボタンに込めたメッセージ
ウエスト部分を留めるジーンズのトップボタンは、ボタンフライ、ジッパーフライに関わらず、ジーンズの前表に現れる唯一のボタンです。「一番うえのボタン」という意味のトップボタンと呼ばれる所以は、ボタンフライの場合の一番うえのボタンだから。呼び名にふさわしく、トップボタンにはブランドのオリジナルボタンが用いられ、ブランド名が刻印されている場合がほとんどです。名前だけに留まらず、形やデザインもさまざまなものがあり、トップボタンには、そのブランドのジーンズへの想いやこだわり、そしてそれを穿く人へメッセージが凝縮されているのです。
ジーンズは、ボタンも丈夫
労働者の作業着として生まれたジーンズは、丈夫であることが何よりも重要でした。パンツを頑丈にするための工夫があちこちに施されているジーンズですが、トップボタンもその例外ではありません。外れにくく、壊れにくい、そして洗濯してもびくともしないボタンである必要があります。そこで採用されたのが、糸で縫い付けるボタンではなく、タックボタン(又はネオバボタン)と呼ばれる打ち付け式のボタンです。表側のトップパーツと画鋲のような鋲(タック)の2つのパーツで生地を挟み込み、ハンマーで打ち付けて鋲をトップ裏に貫通させて装着させます。
画像引用:http://blog.livedoor.jp/ripeapro/
このタックボタンは、糸付け式のボタンに比べ引きに強く、頑丈です。特にトップボタンはパンツが脱げないようにウエストにあわせて固定する重要な部分であり、また脱ぎ着するたびに留めたり外したりするボタンなので、簡単に壊れては困ります。さらに、厚みのあるデニム生地に針と糸でボタンを縫い付けるのは大変な作業になるため、ジーンズにタックボタンを用いることは製造上の利便も兼ねているといえます。
フラット型とドーナツ型
トップボタンにはさまざまなデザインがあるのですが、ベースとなるデザインは主に2種類。表面が平らなフラット型と、中央にドーナツのように穴があいているドーナツ型です。
フラット型のなかでも、ブランド名をぐるりと輪郭を描くように配置しているリーバイスタイプと呼ばれるデザインは、多くのブランドに採用されているデザインです。横須賀ジーンズ商会のオリジナルトップボタンもこのデザインです。
ドーナツ型は、中央部に鋲の打ち込みが見え、ジーンズらしい無骨な雰囲気のあるデザインです。なかでも有名なのは、月桂樹があしらわれた大戦モデルと呼ばれているデザインです。第二次大戦中のアメリカでは、軍需優先のために物資が統制され、ジーンズのパーツも簡略化が義務づけられました。そこで採用されたのが、月桂樹を模したドーナツ型の既製品ボタンでした。今でも既製品として多く出回っており、年代物らしいヴィンテージ感に溢れた味わいのあるトップボタンです。
画像引用:https://www.aiirodenim.com/
素材も個性
トップボタンに使用される素材もさまざまです。鉄、亜鉛、ニッケル、真鍮などなど。鉄は独特のさびや摩擦をうみ、経年変化を楽しむことができます。真鍮なども使い込むほどに緑青が現れるなど色や風合いが変化します。ジーンズの経年変化は、デニム生地の色落ちや擦れや破れだけでなく、トップボタンの経年変化も楽しみのひとつです。ちょっとしたパーツながらも、ジーンズ全体の雰囲気を引き立てます。
画像引用:http://www.levisguide.com/
ジーンズのトップボタンはただのボタンにあらず!丈夫なだけでなく、デザインの凹凸、文字や絵柄のバランス、色や素材、形…。トップボタンを見れば、そのジーンズの作り手のこだわりとセンスが一目瞭然です。トップボタンは、ジーンズブランドの存在要素=アイデンティティなのです。