前回に引き続き、タックのおはなし。今回は、メンズファッションにおける最重要アイテム、スーツに焦点をあてます。そこから、とても理にかなったタックにまつわるはなしが浮き彫りになりました。
スーツのルーツ
スーツ大国と聞いて、どこの国を思い浮かべますか?
最近ではもの造りに長けた日本も独自のスーツ文化を形成していますが、世界のスーツ大国といえば、イギリスとイタリアです。ジーンズが労働者の作業着として生まれたのと同様、スーツも身に纏うものである以上、それを必要とする環境が密接に関係しながら、歴史と技術が形成されています。前置きとしてイギリスとイタリアのスーツ文化を簡単におさらいしたいと思います。
英国紳士服といえば
スーツ発祥地であるイギリスの中でも有名なのがSavile Row(サヴィル・ロウ)のビスポークです。
Savil Row in London 画像引用:https://en.wikipedia.org/
サヴィル・ロウとは、イギリスロンドン中心部にある通りの名前で、高級なオーダーメイド紳士服店、それも名門店が軒並み並んでいる紳士服街。英国王家御用達はもちろん、歴史に名を馳せる多くの著名人がここサヴィル・ロウでスーツを仕立てています。007シリーズのJames Bond(ジェームズ・ボンド)もサヴィル・ロウのスーツ愛用者だとか。
画像引用:http://manning-and-manning.com/
英語でオーダーメイドでスーツを作る仕立屋のことを「bespoke tailor(ビスポークテイラー)」と言い、これはお客に希望を話されるという意味の「Be spoken」から作られた造語で、サヴィル・ロウが発祥といわれています。また日本語の「背広」も”サヴィルロウ”から着ているという説があるとか!知ってましたぁ?!
18世紀、サヴィル・ロウエリアは、軍関係者の居住地でした。19世紀に入り紳士階級のファッションブームが起こり、”洒落者ブランメル”の名を持つ着道楽者George Brummell(ジョージ・ブランメル)がサヴィル・ロウの仕立屋を支援していたことから名門紳士服街としての歴史が始まります。ちなみにこのブランメル、イギリス紳士服の基準を創った一人ともいわれており、ダンディズムのお手本として知るひとぞ知るカリスマです。貴族階級向けのテイラーや、元は軍服を作っていたテイラーなどさまざまな歴史をもつテイラーが並ぶサヴィル・ロウはイギリスの、いや、世界の仕立職人の金字塔といっても過言ではありません。
クラシコイタリア
スーツの発祥地であり伝統的なのがイギリスだとすれば、スーツをファッションとして定着させ世界に広めたのがイタリアです。なかでも「Classico Italia(クラシコイタリア)」は、フィレンツェを本拠地とする「クラシコイタリア協会」加盟ブランドによるスーツのこと。1986年に設立されたこの協会は、その伝統と古典的及び伝統的技術を誇る縫製会社がその地位を確立するために結成し、加盟ブランドは現在12社のみ。「クラシコイタリア」とは、この12ブランドによるスーツの呼称であり、協会が定めたある一定の基準を満たしたスーツにのみ名乗ることが許されているのです。フィレンツェで年2回行われるファッション展示会「Pitti Immagine Uomo(ピッティウォモ)」は、その「クラシコイタリア」のショーケースイベント。
画像引用:http://www.italie-france.com/
「ピッティウォモ」は、世界の着道楽な紳士が一堂に会するお祭りとなっています。「クラシコイタリア」は、伝統的でありなおかつ高品質、さらにそこに独自のファッションセンスを加えたイタリアンスーツであり、世界の着道楽がこぞって注目するスーツでもあるのです。
インタックとアウトタック
さて、イギリスとイタリアのスーツの違いを、パンツのタックに注目しながらみていきます。
タックには大きく2種類あります。パンツの中央トップボタンにむかって内側にひだが倒れているのをインタック(Forward pleasts)、外側にたおれているのをアウトタック(Reversed pleats)といいます。
画像引用:https://www.artofmanliness.com/
インタックはクラッシックな趣きがあり、すっきりとしたシルエットを創ります。裾に向かってシャープな印象を演出し、見た目の広がりも抑えてくれます。そして、インタックはイギリス式です。
画像引用:http://www.countrysports.se/
それに対してイタリア式のアウトタックは、カジュアルな印象をパンツに与えます。腰回りをゆったりとみせ、緩やかでふんわりとした見え方です。
画像引用:https://www.fashionbeans.com/
イギリスVSイタリアによるタック争い?
このタックのインタックとアウトタックの違いは、イギリスとイタリアのスーツの特徴を、転じてそれぞれの国の環境や国民性をも如実に表しているのです。つまりまとめてみると…
イギリス式=インタック→かっちりすっきりきれいな線→男らしさと格式→重厚で耐久性重視→ハリとコシのある重量感ある生地→ヨレヨレにならない→曇りが多く湿気が高い気候→保守的で内向的。伝統を重んじ真面目な国民性。
=男性に対する目線を意識した格式高い紳士のためのビシッとした紳士スーツ
画像引用:https://made-to-measure-suits.bgfashion.net/
イタリア式=アウトタック→ゆったりなめらかな線→品のなかに遊び心がある→ファッション性を重んじる→ドレープ感のある軽く柔らかい生地→乾燥によるへたりが遅い生地→晴天が多く乾燥した気候→陽気で外交的。人生を謳歌する楽天的な国民性。
=女性に対する目線を意識したセクシーでファッション性の高い色男スーツ
画像引用: https://agentlemans.world/
おもしろくないですか?この考察!ご自分のスーツがどんなスーツなのか、気になりはじめてくれたら嬉しい限りです。
タックパンツを穿くべき理由
以上を踏まえて(毎度前置きが長い!)、YOKOSUKA JEANSはタックの入ったスリムフィットジーンズです。なぜか?
まず、YOKOSUKA JEANSのタックはイギリス式のインタック。それは、アウトタックに比べ、インタックのパンツは腰回りがダブつくことなく、すっきり見えるからです。そして、前から見たとき、タックのひだが内側に向かっていることによって目線も内側に向かい、シルエットがスリムに見えるのです。また、ただ単純にクラシックで品があることもインタックを採用した理由です。そう、紳士的選択(笑)です。
また、スリムフィットというシルエットにタックを施すことにも重要な意味があります。スリムフィットパンツを穿く時、どうしても本来のウエストラインよりも腰位置を下げてパンツを穿きがちです。そして座ったりしゃがんだりするとヒップが半分見えてしまうなど、せっかくのお洒落が台無しになってしまいます。スリムフィットパンツにタックを入れることで、本来のウエストラインで穿けるようになるのです。
ノータックのパンツが主流となり、どの体型の人もノータック、しかもスリムフィットパンツを穿くようになりました。しかし、ノータックのスリムフィットパンツがどんな体型にも受け入れられるパンツかというと、そうではありません。体型にあったパンツの形、シルエットがあり、その体型にあったパンツを穿くことで初めて品とスタイルが生まれます。ウエストサイズが気になる世代が、スリムフィットシルエットのパンツを穿きたいと思ったら、タックが入っていることはある意味当然のことでもあるように思います。
タックパンツを穿く利点はまだまだあります。スーツ大国のイギリスやイタリアが採用している通り、しわになりにくいのです。タックがあることで、座っても、かがんでも形が崩れにくいのです。ノータックパンツを穿いて椅子に座ると太もも周りがキツいと感じることがあると思います。ポケットに余裕ができるのも嬉しい利点です。
いかがでしたか?少々マニアックな方向にいきましたが、タックパンツを見直して頂けたのではないでしょうか。
”ワンタックジーンズといえば【横須賀ジーンズ商会】”
そう世の人々に認識して頂くことが【横須賀ジーンズ商会】の野望です。イギリスやイタリアの伝統的且つ格式高いスーツがそうであるように、流行り廃りに流されずカッコいいワンタックジーンズをこれからもお届けしたいと思っています。