お手元のジーンズの縫い目を細かく見たことがありますか? 場所によって異なる番手(太さ)の糸を使っているなんて想像もしなかったのと同様に、よく見てみると、場所によって、または、メーカーやジーンズの種類によって、いくつか異なるステッチが施されていることに気づくかと思います。
前回に引き続き、今回も今さら聞けないシリーズ「ジーンズのステッチ」について。今回はステッチの種類・縫い方の違いを解説します。
チェーンステッチ
ジーンズの裾上げに使われていることで有名な縫い方。環縫い(かんぬい)。チェーンステッチ専用のミシンで縫われます。
チェーンステッチは、表と裏で縫い目の見え方が異なり、表はシングルステッチのような縫い目、裏面は鎖状の縫い目です。このチェーンステッチ、洗うと糸が引き締まるのが特徴です。生地と糸の収縮率が異なるため、デニム生地の表面に波打った凹凸が生じます。この縫い縮みや歪み(パッカリング)によって浮き出た部分が擦れ、独特のアタリが出るのです。ジーンズの経年変化のポイントになります。

上・シングルステッチ 下・チェーンステッチ(裏面)

上・シングルステッチ 下・チェーンステッチ(表面)
ジーンズの主要な箇所はこのチェーンステッチで縫われています。脇、内股、ベルト、ヨークはチェーンステッチです。距離の長い箇所に採用されている、とも言い換えることができます。

ヨーク部分(裏面)
というのも、工業製品でもあるジーンズ製造の作業効率と関係があるからなのです。チェーンステッチを縫うためのミシンには、シングルステッチで使用するミシンに必要な下糸用のケース=ボビンがありません。そのため、下糸を小まめに交換する手間がなく、上糸と同じように下糸を扱うことができ、作業効率が良いのです。
一方、チェーンステッチは、下糸を一箇所ほどくだけで一気にほどけてしまうのが欠点。シングルステッチに比べると強度は劣ります。ですが、ジーンズらしい表情であるアタリを作る影の立役者こそ、このチェーンステッチであり、効率性から生まれたとはいえ、永遠の定番アイテムであるジーンズにとっては、棚から牡丹餅、瓢箪から駒です。
チェーンステッチとシングルステッチの縫い方をアニメーション化した動画を見つけました。異なるステッチがどのようなカラクリで縫われているか、よくわかります。
https://www.youtube.com/watch?v=XSWir0l_1YY
シングルステッチ
家庭用のミシンのステッチでもあるシングルステッチは、最も一般的なミシンの縫い方。本縫い。表も裏も見た目が同じ。チェーンステッチに比べるとあたりが出にくいのですが、丈夫な縫い方です。
ダブルステッチ
二重ステッチとも呼ばれ、シングルステッチを補強する縫い方です。2本のシングルステッチが平行に縫われており、ダブルステッチもジーンズらしさを演出しているステッチです。最近では、2本の針を同時に施すことのできるミシンが開発され、いっぺんに2本線のステッチが施すことも可能だそうです。手元にあるジーンズをよく見てみると、シングルステッチの2本線とチェーンステッチの2本線があることがわかりました。

Yokosuka Jeansの ”主張しない”ダブルステッチ
リーバイスやLEEのバックポケットのステッチもダブルステッチで縫われています。

画像引用 |https://atamanobsession.wordpress.com/

画像引用:https://leejeans.com.au/
とにかく頑丈で丈夫な作業着として生まれたジーンズは、今現在、ファッションアイテムとしても根強い人気です。ダブルステッチは、ジーンズの強さとファッションアイテムとしての魅力を強固にするダブル“効果”ステッチなのです。
トリプルステッチ
ダブル・ステッチと同様、負荷がかかる箇所を補強するための縫い方。3本のステッチが平行に縫われています。ダブルステッチよりも更に強度が上がります。ペインターパンツのようなワークウェアらしいスタイルに施されていることが多いステッチです。強度もさることながら装飾的に用いられることも多く、こだわりや他とは違う見栄えを狙って施されていることもあります。
閂止め(かんぬきどめ)
止め縫い。縫い止まりは力が加わるとほつれてきてしまうため、ほつれ防止として閂止めを施します。ベルトループや前あき止りなど負荷がかかる箇所に用いられます。リベットの代わりにポケット部分に閂止めが施されているジーンズもあります。
いかがでしたか?ジーンズのディテールにこだわりだすと、本当にキリがないのです!実は、ステッチで語れることはまだまだありまして、ジーンズの深みは尽きる事がないのですが、今回はこの辺にして、またの機会にとっておきたいと思います。